2021/04/22
高齢者社会が進む日本。日常生活に介護が必要な高齢者の数も増えている今、介護の現場で使われる歯ブラシに求められていることがあります。
- 要介護高齢者の口腔ケアの重要性
- 介護用にオススメされている歯ブラシの効果
- これから重視されるべき“介護士に負担がない歯ブラシ”
今回は上記3つのポイントから、“介護の現場と歯磨きにまつわること”をまとめました。
要介護高齢者の口腔ケアの重要性
一般的に高齢者は唾液の分泌量が少なく、口腔内の細菌が繁殖しやすい状態にあるため、虫歯や歯周病のリスクが高いです。
さらに要介護者の場合、口を開けたままの人がいるので、口腔内の唾液が乾き、虫歯・歯周病リスクはさらに高いでしょう。
ただ、こうして単純に「虫歯や歯周病のリスクが高いから」という理由以外にも、要介護高齢者の口腔ケアが重要な理由は他にいくつもあります。
そのうちの3つを、以下で簡単に説明しました。
- 口腔ケアを怠り、味覚が衰えると食事をすすんで取れなくなってしまう
- 自分の口臭を気にして、人と話すことを避ける高齢者が多い
- 口腔内環境が悪化すると起こりやすい、肺炎など他の疾患
【1】口腔ケアを怠り、味覚が衰えると食事をすすんで取れなくなってしまう
要介護高齢者の口腔ケアが不十分だと、虫歯や歯周病の悪化で噛む力が減退するだけでなく、舌苔(ぜったい)が付着して味覚が衰えてしまうことにより、食事の喜びを感じづらくなります。
“食べること”に楽しみがないと食事が面倒になり、進んで食事をとることができなくなったり、食欲が減退したりします。
要介護高齢者に、毎日の食事からしっかりと栄養を摂ってもらうため、歯磨きや舌のケアは大変重要なのです。
【関連コラム】
⇒ 舌を白くする舌苔の原因と予防方法!素敵な笑顔をキープするために
【2】自分の口臭を気にして、人と話すことを避ける高齢者が多い
「口が臭い」と思われるのが嫌で、周りの人と喋ることを極力控えてしまう人がいます。
要介護の精神的な負担を和らげるため、周りの人とのコミュニケーションは不可欠なのに、それができなくなってしまうのです。
もっとも懸念すべきは、要介護者が介護士や医師との会話を避けることでしょう。
「説明が億劫だから」と、ちょっとした体の違和感や痛みを我慢したせいで、取り返しのつかない危険な状態に陥ることも考えられます。
要介護者が自分の気持ちを言葉にすることを妨げないために、毎日のオーラルケアが必要です。
【3】口腔内環境が悪化すると起こりやすい、肺炎など他の疾患
口腔内で繁殖した細菌は、口の中でだけ悪さをするのではありません。
近年の研究では、口腔内で繁殖した細菌が、虫歯や歯周病のみならず他の疾患とも関連している事実に、警鐘が鳴らされています。
要介護高齢者であれば、決して看過できないのは肺炎リスク。
「口腔内に細菌がいっぱいである」ということは、「細菌が肺に入り込んで炎症を引き起こす可能性が高い」ということ。
つまりは大袈裟でなく体全体を守るため、まずは口腔内の環境を守ることから始めなくてはいけません。
【関連コラム】
⇒ 口の健康は、体の健康|毎日のオーラルケアで病気を予防しよう
介護用にオススメされている歯ブラシの効果
すすぎの負担が軽減されて有効成分が歯や歯茎によい影響を与える液体歯磨き、口が大きく開かない人や歯茎が弱った人に向いた指サック歯ブラシなど、介護用歯磨きグッズのオススメには様々あります。
なかでも特に、介護の現場から注目されることが多いのは、スポンジ歯ブラシや360°歯ブラシです。
要介護高齢者の口腔ケアにおいて、これらの歯ブラシは他の種類の歯ブラシと比べてどんなメリットがあるのか、以下でピックアップしてみました。
スポンジ歯ブラシは、要介護者の弱った粘膜を傷つけにくく舌苔も取り除ける
スポンジ歯ブラシ(口腔ケアスポンジ)は、口腔内の粘膜が弱り、傷つきやすい状態にある人に適した介護用歯ブラシです。
その名の通り、ヘッドには毛の代わりにスポンジが付いており、歯磨き時に粘膜を傷つけにくいことがメリットです。
さらに、味覚が鈍る原因の1つでもある、舌苔(ぜったい)を取り除くことにも役立ちます。
360°歯ブラシは、コロコロ這わすだけの楽な動かし方で歯垢が十分取れる
360°歯ブラシは、その名の通り360°全方向に毛が付いている歯ブラシのことです。
細かく上下に歯ブラシを動かす必要はなく、毛先を歯にあてコロコロと這わすように動かして使います。
シャカシャカとは磨かないので、通常の歯ブラシで得られるような“磨けた感覚”に乏しいのですが、それでも歯垢染色剤で確認してみると、広範囲にわたって歯垢が綺麗に取れていることが分かります。
【関連コラム】
⇒ 暮らしのいろんなシーンに役立つ360度歯ブラシ
【POINT】自分で歯ブラシを使える人へのオススメは?
動かしづらいけれども、自分で歯ブラシを持って使える人へのオススメは、ハンドルが太く作られた歯ブラシです。
ハンドルが太いと、握る力が弱くても歯ブラシを落としづらいです。
また、子どもが使う歯ブラシに採用されている、指を通す穴付きの歯ブラシも、歯ブラシを扱う力が弱い人の助けになります。
太いハンドルや指を通す穴があるおかげで、力がうまく入らなくても動かしやすい歯ブラシを用い、手指のトレーニングと口腔ケアの両方を行うことが望ましいです。
これから重視されるべき“介護士に負担がない歯ブラシ”
要介護高齢者の弱った歯・歯茎をいたわる歯ブラシ、手を動かしづらい高齢者自身がつかみやすい歯ブラシは、既に多く展開されています。先述した、指サック歯ブラシなどがそうです。
指サック歯ブラシは、唾液が乾きがちで弱った歯茎をマッサージしながら、歯垢の除去ができる優れた歯磨き用品ですが、「噛まれるときがあって怖い」という意見が介護者側から挙がっているのも事実です。
高齢化社会で増えているのは、要介護者だけではありません。その介護に必要な人の数も、同じく増えています。
その一方介護業界の人手不足は深刻で、1人の介護士が担当する要介護者の数が多く、口腔ケアに必要以上に時間を割くことができないというジレンマもあります。
つまり“介護の現場の視点”から、これからもっと重視されるべきは、介護士に負担がない歯ブラシの普及だと言えるでしょう。
柄が長い360°歯ブラシなど、介護士がケガをしないで短時間で歯磨きが完了する歯ブラシが、どんどん増えることが理想です。
まとめ
食事や排泄、その他医療的なケアなど、介護ではやらなくてはいけないことが山のようにあります。
そのなかで“歯磨き”は、まだ比較的重要度が低いものと、まだ捉えられているかもしれません。
ここまで述べてきたように、実際はそうではなく、食欲を保つため・コミュニケーションを無くさないため、肺炎など虫歯・歯周病以外の疾患をも防ぐために、口腔ケアは重要な役割を果たします。
要介護者の口腔状態にあった歯ブラシだけでなく、要介護者の家族や介護士の負担が減る、介護用歯ブラシの普及がこれから目指されるべきでしょう。